夏休み

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 地獄のような時間も耐え忍んで、なんとか先輩の機嫌を損ねずに終わった。さすがに先輩も男同士ではしたくないのか指を入れたり出したりするだけだったけど、それでも死ぬほど気持ち悪かった。未だに下半身に違和感が残ってる。 「うさちゃん、1人で帰れる?送ってくよ。」 「……だ、だいじょうぶ、です………」 「そう?ふふ、今日はありがと♡明日も来てね。」 「……え、あした………?」 「恋人なんだから、毎日会おうね。」  このセリフと顔だけ見たら、幸せなシチュエーションだった。大好きな恋人にでも言われたら、嬉しかったはず。でも、僕の置かれた状況を踏まえると、恐ろしすぎる場面だった。それに、少し目を細めた先輩はいつも以上に強い呪縛を僕にかけてきた。「恋人」という関係になったせいで、僕は今まで以上に先輩に縛られてしまったことを痛感した。 「じゃあ、また明日ね!」  もう逃げる術はなくなっていた。頼れる人なんて誰もいない。  夏休みの最後の10日間は毎日先輩のもとに通った。毎日毎日、勉強の休憩として、無理矢理ベッドの上で気持ち悪い行為を繰り返された。僕だって、通いたくなかった。でも、先輩からの鳴りやまない電話から行かないと酷い目に遭う気がして、足を引きずりながら、僕は先輩の家に向かっていた。 「明日で夏休みも終わりだね。」 「……はい………。」 「今年の夏はうさちゃんと一緒に過ごせて、楽しかったなぁ~。」  僕は1ミリも楽しくなかった。プラスな感情は一切なかった。 「今日、泊まってく?」 「え………?」 「だって、夏休みでお泊りできるの今日しかないじゃん。」  なんでお泊りする前提なんですか?とは聞けなかった。先輩はニコニコしながらも、目の奥は笑っていなかった。泊まるしか選択肢はない。最悪なことに、僕の家族はギスギスしてるから、僕が急に家に帰らなくなっても、気に留める人はいない。だから、心配事は僕の精神と腰だけだった。 「ねっ!泊まってこ!」 「……で、でも、服が………」  せめてもの抵抗だった。こんなこと言っても、先輩は絶対に気にしないことも分かっていた。それでも、抵抗しているという姿勢を見せないと、自分がダメになりそうだった。 「そんなもの貸すに決まってるじゃん!やったぁー!嬉しい!」  まだ泊まるなんて言っていないのに、先輩ははしゃいで、そのまま僕にキスしてきた。本当に気持ち悪い。他人の唇の感触が気持ち悪くて仕方ないし、先輩が僕の唇を舐めると、舌についているピアスが当たって、背筋がゾッとする。 「じゃあ、今日は朝まで愛し合おうね♡」  僕達の関係は恋人でもヤンキーとカツアゲされる人でもなくて、捕食者と被食者だった。
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