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「先輩……、近いです……」
「んー?今日も可愛いね。」
「……あ、りがとうございます……。」
好かれている理由も何もかも分からない。僕だけじゃなく、学校中のヤンキー達も先輩の僕に対する態度に動揺を隠せていなかった。みんな、リーダー格のヤンキーには好かれたいと考えていたからこそ、愛宕先輩に一生懸命媚びを売っていた。なのに、僕みたいな冴えない男が彼のオキニになってしまったのだから、みんなからの視線は痛いほどのものだった。
「うさちゃん、今日も放課後暇?」
「……え、えぇ……、ひま、です……。」
僕は毎日のように放課後、愛宕先輩と過ごすようになってしまった。
過ごさなければ、愛宕先輩の機嫌が悪くなるみたいで、さっきみたいに他のヤンキーにメンチを切られて、無理矢理先輩の元に連れていかれる。
「うさちゃん、本当に俺のこと好きだよね♡毎日俺のとこに来てくれるもんね♡」
「あ、はは…………」
望んで来てるわけじゃない。こうせざるを得なかった。
「もー、本当に可愛いなぁ♡」
「そんな、ことないですよ…………」
「またまた~、謙遜しちゃって。謙虚で可愛いねぇ♡」
何をもって、可愛いと言ってるのか分からない。別に僕は可愛くもないし、今だって笑顔というより引きつった顔をしていると思う。
愛宕先輩は満足したのか僕に抱きついていた体を離し、優しく手を引いて、高級感あるソファに座らせてきた。
「あ、やっぱり、こっち座って。」
隣に座っていた愛宕先輩は自分の膝をポンポンと叩いた。
え、そこに座る……?僕は完全に思考が停止してしまった。
「ほらほら、こっち来てってば。」
先輩に歯向かうなんて無理だ。だから、恐る恐る先輩の膝の上に座り、できるだけ体重をかけないようにした。でも、先輩が後ろから強い力で抱きしめてきたから、踏ん張ることもできず、全体重を先輩に預けてしまった。
「ん~~♡可愛いー。いい匂いするね。」
「えっ、……あ………、」
嗅がないで下さいとも言うことができず、口を塞いでしまった。
「でも、次からは向かい合うように座ってね。」
え、向かい合う……?膝に乗った状態で……?
できれば、先輩に近づきたくないし、目も合わせたくない。なのに、膝の上に乗って、向かい合うなんて地獄でしかない。
「はい!じゃあ、授業始まるから、また放課後にね!」
やっと先輩が僕の腰にまわしては手を離してくれた。僕はすぐに立ち上がって、一礼して自分の教室に戻った。先輩は僕が部屋から出る間、幼い子供のようにずっとニコニコしたこちらに勢いよく手を振ってきていた。
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