先輩との接近

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「わー!うさちゃんのお弁当美味しそうだねぇ。」 「ありがとうございます……。」  いつも通り、生徒会室に連行され、まだ授業の終わりのチャイムが鳴っていないのに、お弁当を勝手に開けられた。 「お母さんが作ってくれてるの?」 「はい……。」 「いいなぁ。俺一人暮らしだから、いつもコンビニで買っちゃうんだよね。」 「ひ、一人暮らし……なんですか……?」  こんな底辺の学校に通うためにアパートを借りてるとは考えにくいし、そもそも高校生で一人暮らしをしてる人なんてほとんどいないと思っていた。 「うん。俺のおじいちゃんがここの理事長でさ、色々融通が利くから入学したけど、実家はちょっと離れててね。だから、一人暮らし。」 「そう、なんですね……。」  先輩は特に気に留めた様子もなく、コンビニで買ったパンの袋を開けながら話していたけど、理事長の孫という噂は本当だったんだと僕は少し驚いていた。 「ねぇねぇ、パン一口あげるから、卵焼き食べさせてよ。」 「……あ、どうぞ……。」  僕は持っていた箸とお弁当箱をすぐ先輩の前に差し出した。まさしく、ヤンキーとカツアゲされる人だった。 「えー、あーんしてよ。」 「えっ……。」 「ね?いいでしょ?」  先輩は少し可愛らしい顔で笑った後、口を開けて僕のことを見つめてきた。口を開けて待機されたら、拒否できない。覚悟を決めて、僕は卵焼きを先輩の口まで運んだ。 「ん~♡美味し~!」 「……良かったです……。」 「ありがとね♡じゃあ、俺のもあげるね。何がいい?焼きそばパンとメロンパンとチーズのやつ!」 「あ……、大丈夫です……。」 「ふふ♡本当に謙虚だね。じゃあ、このチーズの美味しそうなとこあげるー。」  先輩はゴツイ指輪がついた手でちぎったパンを僕の口に近づけてきた。手で受け取りたかったけど、あーんで食べないといけないようだった。先輩の行動に文句なんて言えないから、必要最低限だけ口を開けた。 「美味しい?」 「……はい……、あ、りがとうございます……。」 「うん!」  先輩は僕と居る時は可愛らしい素振りをしていることが多い。でも、他の人と話してる時は威圧的だし、美人というせいもあるかもだけど、黙っていると少し、いや大分怖い。何を考えているのか分からないし、目の奥が真っ黒に見える。だから、どんなに先輩が可愛いことをしても僕の目には怖いようにしか見えない。
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