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夏休み
「宇佐美は成績が伸び悩んでるな。」
……そりゃあ、先生より生徒の方が大きい声で話しているような授業で成績が伸びるわけがない。でも、気の弱い僕が先生に反論なんてできない。
それに初めて授業中に先輩が僕を連れ出してから、1ヶ月くらいが経つけど、あれからお昼前の授業だと、愛宕先輩が絶対に迎えに来るから、後半は聞けていない。でも、先生は注意をしてくれないし、先輩にはやめて下さいなんて言えないから、どうすることもできない。
「とりあえず、夏休みは出された課題をちゃんとやるように。」
夏休み前の二者面談はたった1分で終わりそうだった。先生もやる気なんてものはない。
「あ、宇佐美は随分と愛宕に可愛がられてるみたいだな。」
「え……?」
初めて、先生の口から僕と先輩の話が出てきた。これまでは絶対に触れてこなかったのに。
……もしかして、助けてくれる?
「愛宕が宇佐美の勉強を見てあげてもいいって言ったから、頼んどいたぞ。」
見てあげてもいい?頼んどいた……?
え、僕そんなこと頼んだ?なんで僕のためみたいに言うの?
「じゃあ、夏休みも羽目を外しすぎないように。」
僕は何も言い返すことができず、教室を後にした。
意味が分からない。なんで先生は助けてくれないんだろう……。
「あっ!うさちゃん!」
僕に明るく声をかけてくる人物なんて、この学校には一人しかいない。僕が振り返るのと同時に声の主は僕に抱きついてきた。
「うさちゃんって意外とお馬鹿さんなんだねー!俺が面倒見てあげる!」
確かに、こんなヤンキー高校にいるくせに成績は中の下だ。いや、下の上くらいかもしれない。だからって、なんで愛宕先輩に勉強を見てもらわないといけないの?
……嫌だ、怖い………。
「じゃあ、今から俺のお家行こうね!」
「え……?」
「夏休みの間、俺の家で勉強教えてあげるから。だから、今日家の場所覚えてね!」
え、夏休みの間?
……待って。まさか夏休みに僕の勉強の面倒を見るつもり……?
僕の手を引っ張ってくる先輩に対して、僕は頭の整理をするために一度立ち止まった。でも、先輩が待ってくれるはずもなく、力強く僕の手を引いてくる。だから、勇気を出して話しかけることにした。
そうでもしないと、もっと恐ろしいことが起きそうだったから。
「あ、あの……、先輩に、そこまで……」
「ん?気にしないで!俺は夏休み中もうさちゃんに会いたいしね♡」
これ以上の抵抗は何も出来なかった。結局、先輩に手首を掴まれたまま、僕は先輩のお家まで連れていかれた。
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