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スペンサーがリビングへ入ると、歳上の恋人は大きな図体をソファに押し込んで、横目にテレビを眺めていた。
くたったワイシャツに下はスウェット。無精髭を生やし、髪も寝起きのようにぼさぼさのままだ。昔の輝きはどこへやら、すっかり落ちぶれた姿だった。もちろん今の姿も十分魅力的だが。
「旅に出る」
キッチンでコーヒーを注いでいたとき、ランディが唐突に言い出した。
「どこへ?」
スペンサーは今しがた淹れたばかりのコーヒーを啜りながら平然と聞き返す。
彼の突飛な発言は今に始まったことではない。
「春だからな」
「そう。いつ帰ってくる?」
ランディはソファの上でごろりと寝返りを打ってこちらを見上げた。
「お前も行くだろ」
「……どこへ?」
「行先は決めてない」
「……期間は?」
「気のすむまでだな」
「俺はいかない」
ランディは勢いよく起き上がった。
「どうして」
「どうして一緒に行くと思うんだ。俺は仕事があるんだよ」
「休めばいいだろ」
「大学教員はそんな自由業じゃない。そっちと違って」
はっとしたのは、つい勢いで口を滑らせた後だった。
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