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「……ど、どうした?」
「へ? あ、いいえ……あの、その制服って、枝露高校ですよね?」
「あぁ。君もだろ?」
「は、はい。下館 あり沙って言います。よろしくお願いします」
「一年 江路だ。よろしく」
頬を絵に描いたように可愛く朱に染める彼女は、礼儀正しくお淑やかだった。欠点は螺子が一本抜けている所だけか。
「って、優雅に挨拶している暇は無いですよ! あと……あと三十秒で遅刻ですぅ!」
「……遅刻だな」
バッグを持ち直して時計を見た下館は、気付いていないのか登りきるのに何分掛かるか分からない坂道を駆け出した。脳味噌あるのかこの娘は。
ドタドタと品の無い走り方をする下館に並走する事、五分。心臓に鞭を打った俺はようやく校門の前に辿り着いた。
「はぁ、はぁ……し、死ぬ……」
「入学式にまさか遅刻する生徒がいるとは思わなかったわ」
固く閉ざされた校門の前には、仁王立ちする女性がいた。
銀縁の眼鏡に網タイツとは、ゲームに居そうなドS女教師キャラをそのまま具現化したような身形だ。踏んで下さい! って言ったら踏んでくれそう。
そんな冗談を口にしたい所だが、威圧感は半端ない。それに俺達は遅刻をした身なのだ。
「す、すいません。バスを逃しちゃって……」
「これから寮生活なのよ? 寝坊助じゃ済まされないから、今夜から余計な事はせずにすぐ寝なさい。付いてきて」
はて、余計な事とは? ……詮索したら負けな気がする。
とにかく黙って先生の後を付いていく事に。ガラガラと引き摺る下館のキャリーバッグを見て、俺もそれにすれば良かったと果てしない後悔をしながら歩いた先には、校舎ではない、しかし威厳のある建物が佇んでいた。
「ここがあなた達今年の一年生用の寮よ」
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