一章 みんな違ってみんな良い

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 玄関から続く細めの廊下を進んだ先には、テレビで見るような豪勢な調度品が所狭しと並ぶリビングがあった。  現実なのか? と頬をつねる。痛い。現実のようだ。 「うわぁ、すごぉい!」  遅れて入ってきた下館が、子どもみたいに素直に声を上げた。言動が間抜けっぽいけど可愛らしく見えるのは、本当に可愛いからだろう。  ひとまずそのリビングの四方に備えられた扉の鍵穴を試す。自分の部屋がどこか分からないロシアンルーレットとは、なかなか恐ろしいものだ。  挿入を繰り返して一致した部屋は、片側の壁に三つ扉が並んだ内の、真ん中の扉だった。下館はその右隣。  という事は左隣と、俺達の扉の向かい側に位置する二つの扉の先には、すでに先客のルームメートの私物が広げられているという事だ。  名前も知らない人間と何故同じ屋根の下で……と思ったが、これからの特待生ならではの楽園的な生活を考えると、案外どうでも良くなった。  物思いに耽りながら、自室へ入る。三ツ星ホテル顔負けの部屋には、勉強机の他にダブルベッドという無駄なオプションが付いていた。隣がいない俺は寝る時寂しさで死ねそう。  とりあえずバッグをベッドの横に置き、部屋を出る。ちょうど隣から輝かしい嬉しそうな顔をした下館が出てきて、幸せ者だなという感想しか生まれなかった。 「確認が済んだら、寮館を出て左に直進してねぇ。その先に校舎があるからねぇ」  夢見心地な俺達にそう言い残すと、哉井さんはとっとと行ってしまった。  取り残された俺と下館は顔を見合わせる。一体どうしろと、という下館の顔が、彼女の天然さを顕にしていた。 「とりあえず、行こうか」 「う、うん」  お互いぎこちない。付き合いたてのカップルか! なんてツッコミを入れたら冷たい視線で凍死する事になりそうだったので思い止まった。  会って数分でルームメートになる事が勝手に決められた相手だ、当然の事。  目がチカチカする館内を出て、言われた通り左へ歩を踏み出す。レンガを詰めて形作られた道の先には、以前受験の際に立ち寄った校舎が悠然と構えていた。
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