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「けどね、男性嫌いだったお姉ちゃんが変わっていたの」
俯きながら話し始める佐保姫の雰囲気は、何だか声を掛けづらい重々しさがあった。
「……何が変わってたんだ?」
「卒業して久しぶりに家に帰ってきた時には、後ろに男がいた。彼氏を作って帰ってきたの」
卒業時にカップルがいる事を理想としている学校だ。そうなるのは当然なのかもしれない。
「夏休みも冬休みも春休みも一回も帰って来なかったと思ったら、結局男と一緒にいるためだったんだって。でもその彼氏とも二年程度で別れて……今はキャバ嬢をやってるわ」
「きゃ、キャバ嬢か……そりゃずいぶんと豹変したもんだな……」
下手に相槌できないこの雰囲気。落ち着いたアダルトなオーラを纏う佐保姫だからこそ、尚更空気が重くなる。
鷹嘴もかなり気まずそうに視線を辺りに泳がせている。
「そうなの? 私のお母さんもキャバクラで働いてるよ!」
「……へ?」
「仲間だね! 同じ職業の人が身内にいる人初めて会った!」
腹が痛くなるようなシリアスなムードをぶち壊したのは、予想外な事に下館だった。
突拍子もなく喜び出す下館に、さすがの佐保姫も呆気に取られている。
「で、でもキャバクラよ?」
「うん? 何がダメなの? いろんな人とお話ができて楽しいよって言ってたよ、私のお母さん」
確かにあの職業以上に様々な人と接する事ができる職業はなかなか存在しない。前向きに捉えれば、会話が得意な人には天職なのかもしれない。
そのあまりにも純粋に笑う下館を見て、佐保姫の険しかった表情が徐々に和らいでいった。
「そうね。そうかもね。……まさか下館さんに励まされるとは思ってなかったわ」
「あれ、今私励ました……のかな? まぁ佐保姫さんが良かったならそれで良いや!」
屈託の無い笑顔を尻目に、佐保姫は微笑みながら視線を俺に向ける。
悪かったな、気の利いた言葉を掛けられなくて。
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