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「洒落にならん!」
桃色の粉雪が舞う下で、息をする事自体が辛い程に俺の心臓は限界を迎えていた。
見上げるとそこには、後光のように太陽を背にして聳え立つ枝露の丘が俺を見下ろしている。
螺旋状の道路を前に、俺はひとまず息を整える。
この最頂部に、今日から三年間暮らす俺の世界が広がっている。受験で登校した時は学舎である校舎しか見られなかったが、その校舎だけでもリッチな感じが異色を感じさせた。
この学校は通常、莫大な入学費の代わりに、長期休みを除く三年間の衣食住代が含まれているため、不自由が無い生活が送れるという。
しかも学校側からの入学招致が無ければ受験の資格さえも無いそうだ。幸運な事に招致の手紙が来た俺は、またもや幸運にも特待生として受かり、金持ちでもない両親の了解を得て入学を果たした。つまりタダで、学生という身分にしては異様な待遇を受けることになったのだ。
しかし。そんな華々しい入学一日目を迎えるはずだった俺は。乗車予定だった送迎バスの最終便を逃して、私物を大量に詰め込んだボストンバッグを引っ提げてはるばる歩いてここに来た訳だ。
入学早々災難な目に遭った俺はようやく校舎が視界に入る所まで辿り着いた訳だが、それでも何十メートルあるか分からないこの坂道を登らなければならないと思うと憂鬱になる。
スポーツを辞めてそこそこ日が経った今、減りに減った少ない体力でこの坂に直面。引き返したくなる。
と、落胆している俺の視界に、一つの影が映った。
「わわわわわ! ま、待ってぇ!」
「な、何だ?」
「あ! すいません、止めて下さぁい!」
ガラガラと荒削りするような音を立ててこちらに急接近してくるのは、光沢の映えたキャリーバッグだった。更にそれを女の子が慌てて追い掛けている。
「っと」
危ない危ない。その女の子に目を奪われてキャリーバッグをスルーする所だった。
何せアニメのキャラクターみたいな、今舞う桜の花弁と同じ桃色の髪が似合う美少女が、俺に向かって走って来ているんだ。
こんな珍しい事無いってくらいに。その女の子は接近してきて。
してきて……し過ぎてないか?
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