別離

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別離

「だからぁー、ゼミ論の現地調査しないといけないから帰れないよ。冬休みには帰るから、じゃあね」 悠希はそういって電話を切る。 実家からお盆休みに帰省しないのかという電話だった。 地域経済学ゼミの現地調査にうってつけの商店をみつけた。 そもそも地域経済を学ぼうと思ったきっかけは過疎化により寂しくなった地元の商店街を盛り上げられたらと思ったのだ。 悠希は三人兄弟の末っ子だから、店を継ぐことはないが、商店街が元気が無くなっているのがさみしかった。 休み中に周辺の調査をしてデータをまとめる為、夏休みの帰省を見送ったのだ。 電話を切ったばかりでまた電話が鳴る。 「母さんはしつこいからな」 母親がまた電話をしてきたのかと思ったが、スマホの画面には藤野と表示されていた。 普段はLINEでのやり取りが多いのでなにか急ぎの用事だろうか? 「藤野くんどうしたの?」 「ゼミの白崎先輩ってわかる?」 藤野がいきなり白崎の名前を出したことにドキリとしたが、あこがれの先輩で告白までされたから知ってるとは言えない為、平静を装って 「3年の眼鏡の人だよね、どうしたの?」 と、聞くと信じられない言葉が返ってきた。 「先輩が事故にあって亡くなったらしい。」 亡くなった?藤野の言葉が呑み込めない。 「え?先輩がどうしたって?」 確認の為にもう一度聞いたが帰ってくる言葉は同じだった。 「いつ?」 「8月1日、先輩授業がないからはやく帰省して事故にあったらしい。一応知らせておこうと思って」 告白された翌日のことだった。 頭が真っ白だ。 「だいじょうぶ?」 「知らせてくれてありがとう」 そう答えるので精いっぱいだった。
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