序開

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序開

驚き立ち尽くしていると、その人が近づいて来た。 「悠希くん、一緒に来て欲しい所があるんだ」 白崎は悠希の手を取ると登ってきたばかりの階段を二人で降りる。 手を引かれた先にはセダンがあり助手席のドアを開けて悠希を座席に誘導し何も言わず車を発進させた。 街が流れていく、悠希は何も言わずに運転する白崎の横顔を見ていた。 30分ほどで到着したのは段ボールが積み重ねられたアパートの一室だった。 「ここは次哉の部屋なんだ、次哉は俺の双子の弟」 悠希は軽い目眩に襲われてその場に崩れ落ちた。 「どう謝ればいいのか、きっと許してもらえないと思う。罵ってくれても、殴ってくれても構わない」 「騙してごめん」 「ど・・して」 それだけを言うのが精一杯だった。 「次哉の葬式を済ませて、おやじもおふくろも放心状態で俺が部屋の整理をすることになった」 床に置いてあるパソコンに手をかけて 「パソコンのロックを開けて見たら、次哉の日記ファルを発見したんだ。」 白崎は気まずそうに悠希とは目を合わずに話す。 悠希も何も言わず白崎の話を聞いていた。 「ゼミの新入生に気になる子がいるという文章を見つけて、そこから日記を読んでいった。」 「次哉が事故にあう前日、君に告白をしたことが書いてあった。多分ダメだと書いてあって、興味本位で部屋の近くに行ったら体調の悪そうな君を見かけたんだ。写真があったから君だとすぐに分かった。」 「フッたわけじゃ・・」 「解ってる、次哉は勘違いしたんだと思う。 思い切って君の部屋に行って、嬉しそうにしている君を見たらもっと話を聞きたくなった。そして、おにぎりをほとんど食べることなく置いてあるのを見て、君が次哉をどう思っていたのかよくわかったんだ」 勘違いでこの人に抱かれていたんだと思うと羞恥心で顔を上げられない。 「1日で止めようと思ったが、君に逢いたくて結局3日間君をその・・してしまった。君が最後まで次哉だと思っていたから、終らせないといけないのに、君の事を好きになってしまった」 白崎が悠希の目を真っ直ぐに見つめる。 「自分勝手な事は分かっている。でも君が好なんだ。次哉の代わりでも構わないから恋人になってほしい」 白崎は土下座のような形で頭を下げると「本当にごめん」と声を絞り出した。 「名前を教えて」 「和哉、白崎和哉です」 白崎は慌てて顔をあげた。 「和哉さん、僕は先輩が好きです。でも、あの三日間を過ごした人も好きだと思う。」 そう言うと和哉は悠希を抱きしめると少し声を震わせて 「ありがとう、悠希」 「これからは、昼も会いに行っていいかな?」 悠希は小さく頷いた。
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