世界は嘘つきで溢れている

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世界は嘘つきで溢れている

アラ、意外と怖くない──「悪魔が封印されていて、特に女の子は魔女にされるから絶対に近寄ってはならない」と言われていた村外れの遺跡に、たった1人で果敢にも入った村娘アンヌは、ひょっこり現れたひょうきんそうなピエロの姿に若干拍子抜けしていた。 「アレ?驚いてる?」  やや大袈裟に、ピエロは肩をすくめる。 「あの……」 「ああ、分かる分かる。ちょっと意外かも知れないけど、キミの想像どおり僕は悪魔だよアクマ。でもって僕は君をすこぶる強力な魔女にすることが出来る。キミの魂と引き換えにね。」 「良かった……あたしはそういう悪魔に会いたかったのよ。」 ピエロの悪魔に、意外にもアンヌは笑顔を見せた。  アンヌが12歳の頃、父が戦地で亡くなり、そのせいで彼女の一家は一気に貧困に陥った。 悪いことは続くもので、翌年に襲ってきた飢饉のせいで、貧しい中でも信仰心を無くさなかった母とまだ5歳だった可愛い妹が相次いで死んでいった。 「心配しないでねアンヌちゃん?叔母さんが面倒みてあげる!」 アンヌを引き取り、育てることを宣言したリーズ叔母さんはとても優しかった。母と妹の葬儀で教会に集まったみんなの前では。 叔母さんの家に行った途端彼女は豹変した。 アンヌに待っていたのは納屋を寝床にし、残り物のスープと固くなったパンを1日2回だけ与えられ、早朝から深夜までこき使われる過酷な毎日だった。 そんな彼女には、神だの魂の救いだのを信じる心などもはや微塵も残っていなかった。 結局この世は力が全てだ。どんなに敬虔でも弱い者は生きていけない。 ならば、あたしは魔女になって力を手に入れる!例え悪魔に魂を売り渡しても── 悲しい過去と悲惨な環境は、アンヌにそんな決断をさせるのに十分だった。 「でも、惜しいねー」  契約の儀式を手短に済ませ、アンヌの二の腕に「契約の証」である逆五芒星を刻み込んだピエロ姿の悪魔は、最後に少しだけ気になる事を言った。 「キミがもしも貴族──いや、そこまでじゃなくても、せめて騎士か魔道士の家にでも生まれていたら、僕なんかと契約しなくても、王国一の魔法使いになれたかも知れないのにね。」 じゃ、頑張って。10日後にお城に行けば、きっと道は開けるから── 予言めいたアドバイスを残して、ピエロ姿の悪魔は唐突に消えた。
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