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「私はうそつきです」
彼女は言った。
言われて僕は考える。
もし彼女がうそつきだとしたら、彼女が言った「私はうそつきです」というセリフは嘘だということになり、彼女はうそつきではないことになってしまう。
もし彼女がうそつきではないとしたら、彼女が言った「私はうそつきです」というセリフは本当だということになり、彼女はうそつきだということになってしまう。
「私はうそつきです」なんてことは、僕の理論上には成立しないのだ。
そう、彼女はいつもこうだ。論理がめちゃくちゃで、僕にはちっとも理解できない。
本当はわかっている。おかしいのは僕の方で、僕は結局、面倒くさいやつなのだ。
でも彼女はたぶん、そんな僕のことをよくわかっている。
ほら、だから今だって、あんなにいたずらっぽい笑みを浮かべて僕を見ているんだ。
だから僕は言ってやるんだ。
「僕はうそつきではありません。結婚してください」
「いやです」
うそつきな彼女はやっぱりいたずらっぽく笑って、僕の差し出した指輪を受け取ると、嬉しそうに左手の薬指にはめた。
ほら、やっぱり君はうそつきだ。
ー終ー
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