第一章  シリトーと彼

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「ほんと、幸恵のヤツ、オレのことをどう思ってるのか知らないが、荷物持ちの召使いか、使い勝手の良いヘルパーぐらいにしか思ってないのさ。関君と会った日も、結局買物するとか言いながら道で偶然会った同じサークルの友達と話が盛り上がって二人で何処かに行ってしまったんだ。こっちは振り回されてばかりだよ」  櫻井さんはそう言ってため息をつく。振り回されていながらも、櫻井さんは笑って彼女を許しているのがわかる。それがまた、たまらなくオレを苛立たせた。オレには全く関係のない世界だった。けれど櫻井さんと出会ったことで、同じ世界の住人にでもなってしまったような感覚を勝手に持っている自分がいる。つい最近まで彼らの名前さえ知らなかったというのに。
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