オン・ザ・マスク

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ーー※ーー  卓也と別れ、姿が見えなくなったところで、彩希ーーー正確には、卓也に『彩希』と名乗っていた女はスマホを取り出した。そして、すぐに電話をかけた。 「あ、もしもし?私だけど、今終わったよ。そっちは?あ、ほんとに?近くにいるの?じゃあ直接会って話そうよ。場所は…」  待ち合わせ場所を決め電話を切り、女はショッピングモールの近くのカフェへ向かった。店内に入り首をきょろきょろ左右に振ると、奥の席に『彼女』を見つけた。 「お待たせ」 「あ、お疲れさまー。どうだった?バレなかった?」 「全然余裕だったよ。マスクもしてるし」 「いつもごめんね、今日は他のデートが入っちゃって」 「ほんっとあんたは男遊びばっかりだね。私も卓也くんだっけ?初対面の人と一日一緒で疲れちゃったよ」 「ごめんって。でも毎回思うけど、バレないもんだね」 「ほんとそうだね、マスク付けてると顔が半分見えてないから、髪型と目のメイクを同じにすれば同一人物に見えちゃうのかな」 「それにさ、今日のデートは映画だったし、暗い上にマスクも外さないから楽勝でしょ」 「でも映画が終わった後、カフェに行こうって言われてちょっとヒヤッとしちゃった」 「そうなの?どうしたの?」 「感染症が怖い、って言って断った」 「そうなんだ、大変だったね」 「人事みたいに言うね」 「ごめんごめん」 「それに、もう一つ危険な場面があったんだから。直樹くんだっけ?あんたが二週間前に参加した合コンの幹事の人と偶然会ったの」 「え、直樹くんと?ヤバいじゃん」 「そう、だから全力で逃げたよ。卓也くんには適当に言い訳して」 「やるねー」 「そしたら卓也くん信じちゃって。純粋過ぎるよね。でも逆に純粋だから、付き合うにはいいかもね。浮気とか嘘ついても簡単に騙せそう。公務員だから安定もしてるし」 「へえ」 「でも会話は面白く無かったかなー。慣れてない感じがした。質問ばっかりで疲れちゃった。ま、及第点ってとこかな。じゃあこれ、返すね」 「ありがとう、私のスマホ」 「正確には男遊び用のスマホ、でしょ」 「あはは、格安SIMとかで料金が安くなったから便利だよね。次もデートがダブルブッキングしたら代役、宜しくね」 「その代わりちゃんとイケメン紹介してよね、彩希」 「任せといて」  そう言って、彼女ーーー本物の彩希は、妖しく笑ってみせた。
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