オン・ザ・マスク

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オン・ザ・マスク

 令和の世の中は混沌に満ちていた。突如、新種のウイルスが出現し、瞬く間に世界中に広まった。ウイルスは世界中の人々を死に至らしめ、人々はその『見えない悪魔』の影に怯えることとなった。  と言うと幾分かは大袈裟ではあるが、要はこれまでに無い新種のウイルスが出現し、人の身体に乗って世界各国に渡り感染者を増やした。  その新種ウイルスに感染すると、大抵の場合は風邪や熱と同様の症状が発症するが、最悪の場合は人を死に至らしめることもあり、人々は感染症対策を余儀なくされた。  その最も効果的な方法というのが、『マスクを着用すること』であった。  ある専門家がテレビで話した「この感染症は飛沫での感染ケースが非常に多く見られるため、マスクが有効である」という言葉を皮切りに、人々の間でマスクの奪い合いが勃発した。  スーパーやドラッグストアなど、各小売業は開店前から長蛇の列。ネットでは買い占め業者による定価を遥かに上回る価格での転売出品。マスクが入手出来ず暴動を起こす人々。マスク需要に対する追いつかない供給。  オイルショックもかくや、と言わんばかりのパニックであった。  とは言え、現在は状況も大きく改善している。  マスクの生産ラインも大幅に増設され、繰り返し洗って使える布マスクも一般化した。今やどの店にもマスクが山積みで立ち並び、マスクが手に入らないなどと言うことは起こり得ない。  そのような流れを経て、少なくとも日本の大多数に置いて、とある共通認識を持つこととなった。それは、『マスクは装着して当然である』というものだった。  実際、その日卓也が参加した合コンでもそうだった。  いわゆる『マスク会食』という、食べたり飲んだりする瞬間以外はマスクを付けたままにしよう、という趣旨の食事会にて開催された合コンだった。
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