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『こんにちは。待ち合わせ場所に着きましたがどこですか?』
辺りを見回していた女の子は、卓也から少し離れた場所に立ち止まりスマホを見つめていた。多分あの子だ。卓也は直感したものの、声をかけるのを躊躇った。もし別人だったら、そう考え、自分もメッセージを返すことにした。
『こんにちは!僕も着いています。黒いジャケットを着ています!』
さあ、どう出るか。女の子は再び首を左右に振りきょろきょろしている。卓也は視界に入るようさりげなく移動する。やがて女の子と顔が合い、互いに距離を詰める。あの、と声をかけられ、卓也は確信に変わる。
卓也さんですよね?女の子は卓也にそう言い、緊張の面持ちーーーマスク越しなので顔が半分しか見えていないがーーーで構えていた。
「そうです。彩希さんですよね」
「そうです、彩希です!よかったー、前に会ったのが結構前だったから、ちょっと自信無くって」
そう言って、女の子は緊張から解放され目尻を下げ笑って見せた。正直に言うと、合コンは二週間前の出来事だったので、卓也も彩希の顔をはっきり覚えている訳では無かった。
「ですよね、みんなマスクしてるから分かりにくいし」
「分かります、今日も電車でみんなマスクしてましたし。でも今の時期、マスク外すと怖いですから仕方ないですね」
取り止めもない会話もそこそこに、じゃあ行こうか、と卓也たちは歩き出した。大丈夫、今日のデートプランは鉄板だから。自分に言い聞かせ、卓也は彩希と歩幅を合わせた。
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