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二人並んで歩きながらも、卓也は場が沈黙にならないよう努めた。事前に考えて来た話題を頭の中で思い出す。
「お昼は食べてきた?」
「うん、食べてきた!外食はちょっと怖いから、家で食べてきたよー」
「そうなんだ。何食べたの?」
「えっとね、簡単にパスタ。って言っても、麺を茹でてソースをかけるだけのやつだけど」
「へえ、いいねパスタ、俺も好きだよ。料理はよくするの?」
「一人暮らしだし、出来るだけ毎食料理するようにしてるよ。忙しかったり時間ないときは簡単な料理ばっかりになっちゃうけど」
「分かる、俺も一人暮らしだけど、カップ麺とか簡単なやつばっかりになるなー」
「カップ麺は料理じゃないよー」
楽しそうに彩希は笑う。その様子を見て、卓也は内心ほっと胸を撫で下ろした。今日のデートに向け、ネットの記事を読み漁り卓也が決めた作戦。それは、『とにかく質問をして会話を繋げること』『たくさん女の子に共感して、場を盛り上げること』の二つだった。
他愛もない会話のラリーが続き卓也が安堵する中、二人は歩みを進め、十分ほど歩いたところで目的地へ到着した。何の変哲も無い複合型ショッピングセンターであるが、都心から少し外れたこの地域では、定番のデートスポットであった。
「映画、久しぶりで楽しみだね」
彩希が声を弾ませ、卓也も満足そうに頷く。そもそも今日二人がデートすることとなった理由、それが共通の趣味である映画のためだった。
ーーーーえっ、卓也さんも映画好きなんですか。
二週間前、合コンの自己紹介で卓也が映画が趣味だと言うと、女性陣の中の一人が強い反応を見せた。それが彩希だった。二人はそこで色んな映画の話をした。メジャーな映画の感想から、お互いの好きな映画のジャンルの話。少し一般向けではないマニアックな映画の話まで、話せど話題は尽きず、すっかり意気投合したのだった。
卓也としては、社会人になってから仕事に追われ休日は疲れ果て、すっかり出不精となっていた。だが、休日は有意義に過ごしたい、という気持ちから、家で出来ることとして映画を見始めた。
昨今では動画サイトのサブスクリプションで多種多様な映像コンテンツを提供しており、卓也はこれを片っ端から見た。すると、思いの外映画と言うものは奥が深く、のめり込んでしまったのであった。結果、暇潰しで始めた映画鑑賞は、すっかり趣味にまで昇華したのだった。
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