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「じゃあ俺行くわ」
「おう、ありがとう。デート頑張れよ。結果は後でちゃんと報告するんだぞ」
「うるせえよ」
マスク越しに悪友の笑みを浮かべ、二人は別れた。さて、彩希を探さなくては。連絡を取るためスマホを片手に持ちつつ、彩希が消えた方向に歩き出した。すると、五十メートルほど歩いたところで、連絡をするまでも無く、柱の影のベンチに彩希が座っているのを発見した。
「あ、卓也くん」
卓也に気が付き、彩希はすぐさま立ち上がって駆け寄ってくる。
「ごめんね、急にいなくなっちゃって。卓也くんの友達みたいだったから、私はいない方がいいと思って、こっちまで来ちゃった」
直樹の言う通り、彩希は気を使って離れていただけだった。卓也は何だか面白くなり、思わず吹き出してしまった。
「どうしたの?」
「ううん、何でもない。こっちこそ、せっかくのデートなのに友達と話し込んじゃってごめんね」
「デート?」
あ、と卓也は口に手をやりたくなる。思わずデートと言う言葉を使ってしまった。彩希はそんな気では無いかもしれないのに、気持ち悪がられたらどうしよう。恐る恐る彩希を見ると、それが杞憂に終わることがすぐに分かった。
「そうだね、でも全然大丈夫。偶然お友達と会ったんだもんね、仕方ないよ。さ、デートの続き、しよ?」
彩希にデートを否定されず、卓也は嬉しくなってしまう。
「うん、ありがとう。さっきの友達さ、実は二週間前の飲み会にいたやつなんだけど、直樹ってやつ。覚えてる?」
「え?あ、ああ、そういえば見たことある顔かも、って思ったけど、そうだったんだ。ちょっと忘れちゃってたかも」
「直樹がさ、飲み会参加してくれてありがとう、って言ってた」
「そ、そうなんだ。こちらこそありがとう、って言いたかったなあ」
「また今度俺から伝えとくよ。そういえば雑貨屋さんだったよね?行こっか」
「うん、そうだね、行こー!」
そう言って、二人は再び歩き出した。イレギュラーはあったものの、ここまでは順調。この調子でこの後のデートも頑張ろう。卓也は気合を入れ直し、彩希と並んで歩いた。
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