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「ただいま戻りました」
従業員用の玄関から入って、事務所へ顔を出した。
「おかえり。そっか、検診、行ってきたんだね? どう? 先生になんか言われた?」
「はい。順調だって言われました」
「そっか、よかったねぇ。ほら、寒いから戸を閉めて、こっち来て座りなよ。お茶淹れてやるからさ」
「おかえり、って、今日お休みじゃなかったっけ?」
「そうなんですけど、気になっちゃって」
「だめだよ〜亜弥ちゃん、あんた働き過ぎなんだからちゃんと休まないと。お腹の赤ちゃんに障ったらどうするの」
右から左から次々に声をかけられる。寒い外をうろうろするよりも、賑やかなここにいるほうがよほどいい、と、亜弥は思う。
「昼ご飯は済ませたの?」
「はい。お腹が空いたので、お会計待ちの間にサンドイッチ食べました」
「あらまあ、そんなんじゃ足んないだろ? 食堂になんかあるんじゃないか? もらってきてやろうか」
「今頃食べたって半端でしょ? 河部さんが持ってきた酒まんじゅうがあるよ、食べる?」
「酒まんじゅうはいいねぇ。あれは私も好きなんだ。皆ちょっと休憩にしようよ」
玄米茶の香ばしい香りが漂いはじめ、酒まんじゅうにおかきや飴、昔懐かしい駄菓子まで、色とりどりの茶菓子がテーブルに並んだ。もちろん山盛りみかんは、中央で常備され、毎日がこんな感じでおやつを我慢しろというほうが、無理がある。
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