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「十分酷いだろ? 勝手に都合良く脚色までして。自分の行いを恥とも思わないなんて、まったく大した人だよ」
「ちょっ……克巳くんまでっ? なんで? どうして知って……」
吐き捨てる克巳に驚きながらも、亜弥は続く言葉を呑み込んだ。この件を知っている人物は、ひとりしかいないのだから——。
「桃子だ」
ああやっぱり。
「そう、だよね」
桃子は社長からの話を含めた自分の想いも行動もすべて、克巳と、もしかしたら敦史にまでも報告済みなのだろう。
思い起こせば昔からこうしていつも桃子に世話になってはいるのだ。それはたしかにそうなのだ。騙された、とは言い切れない。結果的によい方向に働いているし、助けられているのだとも思う。けれども。
なんだか桃子の手のひらの上で踊らされているような気がして——。
「亜弥。あの男の一件は、俺の甘さが招いたことでもある。だから俺からも、ごめん」
亜弥への申し訳なさに肩を落とす敦史と、社長に対する不快感を露わにする克巳。
同じひとりの父親に対する思いの違いは同時に、彼らの立場の違いを明確にしている。社長の物言いを思い出した亜弥は、複雑な気持ちになった。
「ただし、おまえもだよ、亜弥」
「あ……」
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