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寂しげな瞳が語るその意味を、亜弥は一瞬のうちに理解する。
そう。あの時。
わたしは何故、社長の一方的な話だけを聞き、克巳の前から消えることばかり思っていたのだろう。
突然いなくなってしまったら、残された克巳が何れ程心配するか、何れ程に傷付いてしまうかなんて、わたしは十二分に知っていたはずなのに。
部長だってそう。わたしにあれほど好意を寄せてくれた人が、姿を消したわたしを心配し、探さないはずがないのだ。
彼らの気持ちを思えば、自分の行動は非道なことこの上ない。
もしも、桃子が彼らに話をしていなかったら——その精神的物理的負担を思うだけでも恐ろしく。
社長の言葉に振り回されて、完全に冷静さを欠いていた自分の愚かさに、いまさらながら呆れてしまう。
なにが克巳のためだ。克巳の邪魔をしたくないだなんていいながら、自分が逃げ出したかっただけだったのだ。
なんてばかなことをしてしまったのだろう。
「ごめんなさい。わたし」
己の浅はかさに亜弥は恥じ入り身を小さくする。
「いいよ。亜弥が無事だったらそれでいいんだ」
「克巳くん。部長も……心配かけて本当にごめんなさい」
彼らは、無事でよかった、と、言ってくれる。けれども亜弥は、合わせる顔もなく、ただただ頭を下げ続けた。
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