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押し入れの下段にぎっしりと詰め込まれた段ボール箱や半透明の衣装箱。その中身ももちろんぎっしりと、『皆の愛』が詰め込まれている。
「これでも時間があるときに少しずつ仕分けはしてるのよね。ぜんぜん追いつかないんだけど」
茫然とした克巳は、大量の子ども用品と苦笑いする亜弥とを見比べて、「すごいな」と言葉を漏らした。
押し入れから引っ張り出したそれらを広げた中央へと腰を下ろした亜弥は、贈答用の箱を開け、白い御包みと小さな兎のぬいぐるみを手に取る。
フワフワのタオル地でできたこの兎はきっと、産まれてくる子どものお気に入りになるだろう。
握って振ればカラカラと音がする色鮮やかな玩具で遊ぶこの子は、どんなふうに笑うのだろうか。
亜弥の隣に座り込み、腰を抱き寄せた克巳が、未だ膨らんでもいない亜弥の下腹部に触れると、克巳の肩に身体を預けた亜弥が、その甲に手を重ね、細い指を絡めた。
「ねえ克巳くん。わたし、ここでこの子を産んで育てたいの。海があって、空気が気持ちよくて、食べ物もおいしくて、子どもを育てるにはとてもいい環境でしょう? もちろん仕事もね、続けたいの」
黙って亜弥の話に耳を傾けている克巳は、なにを思うのだろう。反応の無さに不安を感じた亜弥は、更に饒舌になる。
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