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内心の毒を微妙な笑顔で覆い隠した亜弥は、敦史の挙動をそれとなく盗み見ては、左右にずらりと並んだカトラリーに手を伸ばす。
滅多なことでは口に入らないであろうそれらの料理を、上品な所作(本人比)で口へと運び、舌の上で転がし咀嚼するけれども、口内が冷たかったり熱かったりするばかりで、味なんてさっぱりわからない。
食べ進めれば進めただけ、お腹の辺りの重苦しさが増すだけだった。
コーヒーの香りとともに緊張するばかりの食事から解放された亜弥の前に、手のひらサイズのチョコレートケーキがサーブされた。中央に灯された蝋燭の脇には「HAPPY BIRTHDAY」のプレートが飾られている。
「亜弥ちゃん、誕生日おめでとう。おっと……蝋燭、吹き消さないと」
「あ、はい」
つーっと滴る蝋に意識を向けながら、幾分慌てて炎に息を吹きかける亜弥をクスリと笑った敦史が、胸ポケットから取り出した長方形の小箱を差し出した。
「はいこれ。ささやかだけど、亜弥ちゃんに誕生日プレゼント」
十字に掛けられた金色のリボンが、カットグラスに揺らめく炎を映し、きらきらと輝いている。
記憶の底から、十年前のあの日あの時の光景が、亜弥の脳裏に浮かび上がった。
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