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雨の日も風の日も雪の日も、ゆで卵はとまることはありませんでした。
たとえ中身はくさっていても、心はくさっていないとかたく信じていました。固ゆでだけに。
ある時のことです。ゆで卵は宿を借りに一軒の家に入りました。そこには病気で寝込んでいるおじいさんがいました。
「おじいさん、病気なんですか?」
「そうさ。もうずっと寝たきりだろうね。ああ、このあいだ孫が産まれたばかりなんだが抱いてやることもできない。それどころか娘夫婦に迷惑ばかりかけて苦しい。いっそ早く死にたいものだ」
ゆで卵は考えました。古いくさった卵を食べたらおじいさんは死ぬに違いない。
それに、ゆで卵としての使命もまっとうできる。ゆで卵はウソをつきました。
「おじいさん、ボクは特別なゆで卵なんだ。ボクを食べると元気になるよ」
おじいさんはゆで卵のウソをわかっていました。何年も旅をしているゆで卵を食べて、お腹が無事なワケがありません。
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