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「イカレ野郎を引き込んだのは」
「あなたを調べてた時に偶然ネットで知り合いました。どれだけ言っても復讐を断念しないからいっそスッキリさせてあげようと」
「殺人教唆か」
「危なくなったら止める予定でした、彼もこれにこりて手出しはしないはず」
「あのさあ……」
途方もない脱力感に見舞われた遊輔の前で、スマホで撮った動画を再生する薫。
自分の記事はフェイクニュースだと暴露する声。
「脅迫の材料が手に入りました」
反射的に手をのばす。空振り。前に泳いだはずみに左腕に激痛が走り、のたうち回って呻く。
「警察に持ち込む?ネット?」
「動画サイトに流しても面白いかも。もちろん俺の顔と声は加工します」
「金はねえぞ!」
「金は目的じゃありません」
全ては欲しいものを手に入れる為。
「あなたはとんでもないウソツキで、だからこそ俺の憧れです。咄嗟に利き腕を庇ったんだから、どんなにフェイクにまみれたってプライドは死んでませんよ」
まだやり直せる。
記事を書ける。
「ずっとあなたの記事を集めて、追いかけて、見てたんです。むかし書いた事件現場に通って、黙祷を捧げて、どんどんダメになって、でもやっぱり足を運んで、何かをじっと願うあなたを。電車の網棚に置き忘れられたリアルを駅のクズ籠に突っこんで、ずんずん歩いていく背中を」
父親の買春を報じた記事の末尾、風祭遊輔の署名を一体何度くり返しなぞり、憧れの面影を膨らませたことか。
「ゲスでクズなフェイクニュースの常習犯でも関係ない、記者としての風祭遊輔にまだ譲れない真実があるならダークウェブに潜ってでも証拠を掴んできます」
縋るように見詰めて、懇願する。
「使ってください」
「……ちょうどよかった。嘘を作るのにゃ飽きた頃合いだよ」
申し出を拒めば破滅しかない。破れかぶれに承諾した遊輔の右腕を掴んで起き上がらせ、薫は心の中で独りごちた。
俺とあなたは共犯だ。
俺はあなたの為に、あなたが掴み損ねた真実をすくいあげる。
『薫か?ベッドに行ってろ』
あなたがあの記事を書いてくれたから。
自殺の動機までご丁寧に捏造してくれたから、あの夜ベランダにたたずむ背中を押して、父を殺すことができた。
あなたの嘘で百人が不幸になろうと、俺だけは救われたから。
「バディ結成だ」
薫の手と遊輔の手は強く結ばれた。
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