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「悪い」
遊輔が詫びる。
「ホント今夜は帰りなさい、手元も足元もふらふらじゃない」
「……すぴー」
「お勘定前に寝オチしないでちょうだい、またツケる気!?」
「やば、こんな時間?僕も失礼します」
グラスの残りを干したサラリーマンが、そそくさと帰り支度を始める。
「ありがとうございました、またお越しくださあい」
ドアベルを鳴らして出ていくサラリーマンの背中に、科を作って愛想を投げかけたあと、困り果てて遊輔を見下ろす。
「起きてってば」
荒っぽく肩を揺すり耳元で大声を出すが、遊輔は鼾をかいて熟睡している。
「タクシーだけ呼んで放り出しておこうかしら」
「俺がやっておきます」
「えっ、いいの?」
「後は任せてください。遊輔さんのフォローも心配なさらず」
「ならお言葉に甘えちゃおうかしら」
「お疲れ様です」
ブランド物のハンドバックを肩に掛けたママを丁寧な一礼で送り出し、遊輔の肩を揺さぶる。
「大丈夫ですか遊輔さん」
呼吸は深く静かに安定している。口元に耳を近付け、規則正しい寝息を確認した後、満足げにほくそ笑む。
「よかった。薬がきいてる」
当分起きないはずだ。その間に準備を進める。
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