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顔面で水が弾ける。 「!っ、」 目を見開く。視界が歪む。コップを掴んだ薫が、カウンターに腰かけて笑っている。 「手荒ですいません。朝まで待てないので」 気持ちが悪い。頭がぐらぐらする。二日酔いの前借りか? 「お前……」 新宿二丁目、行き付けのバー。閉店後なのか誰もいない。やけに視点が低いと思ったら、後ろ手に縛られ床に伸びていた。 薫が見覚えのあるパスケースを開き、勝手に出した遊輔の名刺を弾く。 「何の真似だよ」 途切れ途切れの記憶を辿る。確か酔い潰れて……それからどうした? こめかみが鈍く疼く。 視界の片隅でシェイカーを振っていた薫を回想、グラスに注がれた琥珀色の液体を思い出す。 「薬を盛ったのか」 「正解」 「目的は?」 「あなただよ、風祭遊輔さん」 薫が緩慢に片膝を抱き寄せ、鉄砲に見立てた人さし指を遊輔に擬す。 「人に恨まれる心当たりは?」 「腐るほど」 「だろうね」 記者は因果な商売だ。買った恨みなどいちいち覚えていられない。 薫の双眸が酷薄に細まる。 「週刊リアルなんて名前のくせに載ってる記事は全然リアルじゃない。大半はフェイクだ」 「読み捨て上等のゴシップ雑誌だもんな、電車の荷物棚に放置プレイされてるよ」 「卑下しないでください、哀しくなります」 「なんでお前が」 得体の知れない青年が、遊輔から奪った名刺にキスをする。 「ファンなんです」 「は……?」 「あなたのお得意な(フェイク)じゃありませんよ。証明しましょうか」 横たわった遊輔の鼻先に一冊のスクラップブックを投げてよこす。 投げ出された拍子にファイルが開き、息を飲む。 スクラップブックに綴じられていたのは、全て遊輔の署名入り記事だった。 何年かけてコレクションしたのか、切り抜きは大量にある。 「大物プロデューサーのセクハラ、タレントとモデルの不倫、イケメン俳優の大麻騒動……一番最近のは芸人の風俗通いですね」 「ストーカー?」 ドン引く。 「バイトも偶然じゃねェな」 「遊輔さんの行き付けの店だと知って潜り込みました」 「すげー取材力。いい記者になるぜ」 「本当ですか?」 待てよ、コイツさっきなんて言った? 「俺の得意な(フェイク)じゃねえって言ったか」 薫がカウンターから飛び下り、遊輔の正面に跪く。 「だってそうでしょ?あなたの手柄になってる記事、殆どフェイクニュースなんですから」
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