静江の苛立ち

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息子の正彦は、もう結婚して家を出て、昨年には子供ができた。登と静江にとっての初孫である。 初孫は目に入れても痛くない可愛さだった。 静江はこれからは孫の顔を見るために生きようと考えている。 そもそも子は(かすがい)。夫婦との間に正彦が生まれなかったらとっくに離婚していたかもしれない。 子供がいたからこそ、夫婦はその成長を楽しみに、頑張ってこれたのだと、静江は思う。 別に登に問題があるわけではない。浮気をするわけでもなく、暴力を振るうわけでもなく、酒もたしなむ程度だ。だからこそ余計に静江は苛立たしく思う。 いっそのこと女でも作って浮気して慰謝料でも貰って、家から出ていってもらえばいいのに、なんて思うことすらある。まあ、そんな勇気、ウチの旦那にはナイと思うのだが。 登は実直なのだ。岐阜の工業高校を出て、重機メーカーに就職。神奈川郊外の工場勤務の間に、事務員をしていた静江を見初めて猛アタック。そして結婚。転職もせず、立派に定年まで会社に忠義を尽くしたのは静江も偉いと思っている。なによりバブルの頃に無理をして買った一軒家のローンを返せることができたのも、登が真面目に働き続けたおかげだと思う。そして息子・正彦の大学の学費まで捻出してくれたことにも感謝だ。 (そう、私はわがままなのだ。旦那に頼って、主婦に甘んじてきた。いざとなれば復職だってできたはずなのにこうして家を守っている。時代遅れかもしれないけど、この歳で一人になって生きていくことなんてできない)静江は、自分の身の上をわきまえているつもりだ。 だからこそ悔しいとも思う。友人には手に職をつけて旦那と別れ、自立している女性たちも多い。 「あたしはあたし」そうひとりごちて、日々は過ぎていったのだった。
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