鈴木くんのうそと佐藤さん

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 大学で映画サークルに入ったおれ、鈴木光。  現在目の前に座る佐藤ひかりに、一目惚れをしてしまったのがそもそもの始まりだった。  くりっと大きな瞳にばっさばさのまつ毛。  目立つような美人ではないものの、庇護欲を掻き立てられる可愛らしい顔つきと……それに相反する。  なんとかして近づこうと試みたものの、佐藤は事もあろうに『変人』だった。  流行りの音楽やスイーツ、ファッションには興味がない。  着ているものはいつも外国人観光客がお土産にするような謎Tシャツにデニムパンツ。ちなみに今日の謎Tシャツには「苺は狩るもの」と明朝体で書かれてある。  そして、いちばんのネック。異性の誘いはことごとく断る。  おれは必死で佐藤が何にテンションを上げるのかを調査して――犯罪まがいのことはしていないから安心してほしい――ついに突き止めたのだ。  彼女が齢18にして、異世界に憧れているということを。  今思い出しても恥ずかしすぎて黒歴史。 『佐藤なら笑わないと信じて打ち明ける。おれ、実は異世界から転移してきた人間なんだ。ほんとうの名前は、アレスという』  中高生の頃にハマったライトノベルの記憶を総動員させた結果、おれは異世界の住人になりきることに成功した。  剣と魔法の世界。  建国以来誰にも抜けなかった聖剣を、伝説の大樹から抜くことに成功した。  五大龍を討伐したことで、ドラゴン殺し(ドラゴンスレイヤー)の異名を持つ。  慈悲をかけたばかりに逃げ延びた魔王を追って、この日本にやってきた。聖女の力を借りて。  よくもまぁいけしゃあしゃあとこんな嘘を並べられたものだ。  そしてよく信じたよな、佐藤。  逆にびっくりしたぞ。
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