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すっと佐藤がテーブルの上に右手を出してくる。
握手を求めていると理解するのに数秒かかって、突然のことに頭がバグりそうになった。
好きな女性の手!
しかし動揺を悟られてはならぬのである。
おれは硬派な勇者。聖女や町娘に言い寄られてもなびかなかった。一般女性にいちいちドキドキしているキャラ設定は、していない。
「だから、これからもよろしくね。勇者アレス」
「おぅ」
……やわらかーい。あったかーい。
ここは……ここは天国か……? あぁ、背景に天使が見えるぞ〜……。
ところが、至福もつかの間。
急に佐藤の力が強くなる。な、なんだ? このまま力比べでも挑んでくるのか?
「さ、佐藤?」
「「ごめん、ぜんぶ、うそなの」」
突然、佐藤の声が二重に響く。
ぐにゃり、と目の前の佐藤が歪んで見えた。めまいか?
「「わたしは、ずっと鈴木くんにうそをついてきた」」
愛らしい声に、しわがれた男の声がかぶさった。
微笑んだ佐藤の瞳の白目の部分が漆黒に染まる。
手を――手を、振りほどけない。
「い、痛いよ……佐藤……佐藤……?」
ぞわりと背筋が粟立った。
さすがにこの状況、おれにだってわかる。おかしい。何かが、おかしい。
目の前の佐藤であるはずの誰かが笑うと、さらに空間が歪んだ。
「「吾輩を見つけてくれて感謝する、勇者アレスよ」」
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