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「アレスが日本に転移してきたのは、転生した魔王を追いかけてきたからだって言っていたけれど。転生した魔王を見つける方法なんてあるの?」
「ストーップ! ストーップゥゥゥ!!!」
頼む、頼むからファミレスでそんな大声でその話題を出さないでくれ。
顔に必死さが現れていたようで、向かいに座っている小柄な女性は整った眉をひそめて真顔で頷いた。
「……そうだよね。アレスの正体がバレたら、魔王にとっては思うつぼだよね。ごめんごめん」
随分と都合のいい解釈だが、乗っかる以外に道はない。
「あぁ。これは、おれと佐藤の間だけの秘密にしておいてくれ」
「分かった!」
佐藤の瞳がきらきらと輝く。
あぁ、可愛い。どの角度から見ても可愛い。
それにしても、どうしてこうなったのか。
顔が引きつりそうになるのをなんとか抑えて、定食のから揚げをほお張る。
ぷりっとした食感。噛めば噛むほどジューシーな肉汁が攻撃的に広がって、おれの動揺を鎮めてくれる。
「でもさ」
今度は気を遣おうとしているのか、頬に手を添えて、小声で話しかけてきた。そういう真面目なところも可愛いし加点対象である。
「なんだよ、佐藤」
「転移者なのに上手だよね、箸使い」
「……それは、向こうの世界でも箸がデフォルトだからだよ」
そしてまたおれは呼吸をするかのように自然に嘘をついてしまうのだった。
おれは、ばかか。異世界転移だなんて、ある訳ないだろうが!
ど、う、し、て、こ、う、な、っ、た。
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