下弦の月は真夜中に嗤う

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義弟(おとうと)へ 私が踏み込まなければ、あなたは今頃あの世行きだった。今度から結婚相手はちゃんと選ぶこと。 と姉らしいこと言っても、余計なお世話よね。ごめんなさい。 話すと長くなるの。それにあなたにとってはつまらない話だから、詳しくは説明しない。 父は、詐欺師に娘を(さら)われ、贋作を作らされた人なの。 そう、拐われた娘っていうのが、あなたの結婚相手。そしてわたしの妹。 どうしてああなってしまったのかは、だいたいは見当つくでしょう? 本当に悪いのはその詐欺師なの。 そして私はそいつを探している。 だからといって父を憎まないでとは言わない。ただ知ってほしかっただけ。 二年前、あなたの噂を聞いて近づいた。裏の絵画の蒐集家は、詐欺師を呼び寄せるから。 最初は一味かもと疑った。 けれど調べるうちに義弟(おとうと)だと知り、正直驚いたわ。 どうやらお互い様だったみたいね。 いろいろ迷って、結局は、結婚詐欺に嵌るあなたを囮にする形になってしまった。 現場に押し入り、妹を取り押さえるつもりでいたの。 返り討ちにされたのは誤算だったけど。 でもあなたが時間を作ってくれたおかげで目を覚まし、妹を拘束することに成功した。 全てあなたのおかげ。 ありがとう。 それと、言いづらいのだけれど、この二年、あなたと過ごせたこと。 とても幸せでした。 会えて、よかったと思ってる。 ずるずると、もう少しだけって言いながら泣いたこともある。 正直に言うとね。 居心地が良かったのよ。 そして、もし何も知らなかったらって、思わない日はなかったわ。 あなたにとっては迷惑な話でしょうけど。 だから、わたし達のことは忘れて、幸せになってください。 さようなら。』 メールを閉じ、彼女のことを思う。 後ろ姿があのモデルに重なる。 また会いたいと思うのは、背徳感にまさる愉悦のせいか。 それとも──
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