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「いいじゃない。少しぐらい。付き合いなさいよ」
「そんなわけにいかないよ。帰らないといけないのは、わかるだろ」
帰りを待つ人がいる。
それがこんなにも後ろめたく、罪悪感を覚えるとは自分でも意外だった。
俺と彼女は既に終わった話。
そう思っていた。
大雑把であまり執着をみせない彼女。体以外の相性もよかったのだろう。彼女は俺を指名し続けて、そして俺はここまできたのだ。
「ほら、シャンパンの泡。美味しいよ」
月を浮かべてまた一口飲んで、微笑みかける。
泡を楽しむのが彼女流だ。以前そんなことを話したことがある。
──シャンパングラスってね、底にわざと傷をつけてるから綺麗に泡が出るの。ほら、筋が一本二本と混ざりあって登ってく。水槽のブクブクみたいに。
エアレーション。
えあ?
エアレーション。水槽のブクブクはエアレーションって言うんだ。
へぇ。
そう言って満足そうに微笑んで、シャンパンを口に含んで俺にキスをする。口移しで飲んだシャンパンは理性を溶かすのに十分だった。艶美な香りが鼻に抜けた──
つい、余計なことまで思い出す。短く息を吐いて首をすぼめる。
「で?俺が結婚するって?」
彼女は片側だけ八重歯を見せて笑う。
「そう。おめでとうも言わせないで、つれないじゃないの」
「なんで知ってるんだ?誰にも言ってなかったのに」
「あら、わたし、こう見えて地獄耳なのよ。それにあなたの動向ぐらい察しがつくわ」
盗聴器。
いつから?
俺の携帯に仕込んでるということも考えられる。
まあ、いい。後で全て廃棄するし、俺の部屋は発見機で調べれば済むことだ。
しかしなんの目的で……
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