下弦の月は真夜中に嗤う

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あらゆる手段を講じて、あいつの贋作探しにこの十年を費やした。 細い糸のような情報を手繰(たぐ)り、時に詐欺の手口を警察にタレこんで、計画ごと潰し、時に保管場所を特定し、忍び込んでナイフできりつけ、時に輸送車両ごと盗んで海に沈めたりした。 それでもまだ主犯格は見つかっていない。 多くの場合、資産家の手に渡っていて、その絵の鑑定書が偽造であることを証明するのに手を焼いた。 反応は様々だったが、最後には皆一様に肩を落としてあの時のオーナーと同じような表情をみせた。 しだいに裏の密売や美術品の情報を得るために、裏社会に深く関わるようになってゆく。どっぷり闇に浸って、いまや俺の手は、完全に(けが)れてしまった。 本末転倒とはこのことかと自虐的な嘲笑を何度もした。 そして今回、俺は『裏で出回る名画に目のない男娼』として、彼女の所蔵する絵の噂を聞きつけ、近づいたのだ。 ◇ まただ、さっきから変な既視感が頭を()ぎる。 『もう少しだけ……』 あの絵のような背中、自分の肩を抱き、むせび泣く。 どこで見た光景だろう。 わからない。 俺のために、別の女に取られたくないと、嫉妬に悶絶している。 その姿に俺は、罪悪感よりも先に込み上げる、恐ろしい愉悦の感情に興奮している。 優越感に歓喜している。 俺のちっぽけなプライド、男としての本能を満足させるには十分すぎる、彼女の嗚咽。 身をよじらせて泣く姿に、狂おしいほどの、恍惚とした充足感に今は浸っていたいと思っている。狂気じみた趣向を楽しんでいる俺がいる。 彼女がみせたその本音の姿を、そのまま抱いて一緒に地獄へ落ちたいという誘惑に駆られ、なにもかも台無しにして、犯してしまいたいという欲望が耳を熱くさせる──
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