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第1話 転移
その日は、別に何もない日だった。
新しくコーヒーメーカーを買いたいという母に連れられて、近くの電気屋に行った。母が今、コーヒーにハマっていることを、息子である僕は当然知っていた。そして、母が飽きっぽい性格であることも。
「適当でいいんじゃない?」
「何言ってるの。こういうのはしっかり選ばないと」
そう言って母は、たくさん並べられたコーヒーメーカーと睨めっこを続ける。どうせすぐに飽きるというのに。
「俺、ちょっと別のところ見てくる」
「いいけど、すぐに連絡取れるようにしてよ?」
僕は母の言葉を軽く流して、その場を去った。わざわざ休日を母の荷物持ちに使っているのだ。もう少し感謝して欲しい。
ぶらぶらと適当に店内を歩く。別に目当ての商品があるわけではない。ただの気晴らしだ。
店内を一周し終えた。そろそろ母の元に戻らなければならない。僕は、元の売り場に戻ろうと引き返した。
その途中で、僕はふと足を止めた。
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