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暫く無言で歩かされて着いたのは
「・・・無理」
「あ゛?」
「凄むんじゃないわよっ」
嫌がる私の肩を抱いて強制的に連れ込んだそこは
【愛龍会】
流れるような筆文字の看板がかかった大きなビルだった
「なによっ」
スタスタと歩く尋は私のことなんてお構いなしに
厳つい男達が頭を下げるそこからどんどん奥へと入って行く
やがて
何度か扉を潜った先にあるエレベーターの前で止まると漸く私を見た
「紅太さんが話があるって」
「紅太が?」
「明日から実家に帰るんだろ?」
「うん」
「その前に会いたいって」
意味もよくわからないままエレベーターが表示する最上階で降りる
少し歩いて厳重なセキュリティを潜ると
・・・また、エレベーター?
どうやら直通ではなく段階があるようだ
今度は何の表示もないエレベーターに乗って到着した階で目を見開いた
「何、此処」
一瞬地上かと見紛うような大木がその枝を広げている
・・・桜だ
既に葉桜になってはいるものの
圧倒的な存在感に見惚れる
よく見れば天井は明かり取りの窓ではなくて
ドームのように開閉が出来るようになっている
花が咲いている頃に見たかったなぁ
まじまじと魅入っている私に
「掃除が大変なんだ」
尋はロマンティックの欠片もないことを言って「行くぞ」と歩き出した
桜の木の向こう側に大きな木の門があって
頭を下げる厳つい男性がそれを開くと細工が施された重厚な玄関扉が現れた
「フフ」
「どうした」
「期待を裏切らないわ」
「・・・そうか」
鬼の住処に連れ込まれたというのに、ある程度想定の範囲内だったお陰で少し冷静な自分にも笑えた
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