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「・・・っ」
ハッと我に返って曖昧に笑顔を作れば隣で尋は
「ボーッとしてんな」
私の頭をひと撫でして笑った
・・・ムカつく
慣れそうにない此処から抜け出したくて
「出掛けるんでしょ?」
脇に置いた小さなバッグを手に取る
「食べたいもんあるか?」
「特にはないけど」
「じゃあ美味い“すき焼き”食べに行こう」
紅太はそう言って立ち上がった
合わせるように尋も立ち上がるから慌ててそれに続く
「着替えてくるから先に降りてろ」
紅太は態々テーブルを回って私の前まで来ると頭を撫でてから背中を向けた
「見惚れてんな」
玄関まで歩きながら尋はまた肩を抱いている
「綺麗、だよね」
「惚れたか?」
「・・・まさか」
紅太を好きになる自分が想像できない
いや・・・
誰かを好きになる自分
そんなことを考えている私はエレベーターに乗り込んだ途端壁に追い詰められた
「なに」
「俺と一緒に居ながら、心此処にあらずだな」
「・・・は?」
負けないようにと見上げた先の双眸が揺れている
「何言ってるのかわ、んっ」
最後の言葉は尋の唇へ吸い込まれた
塞がれた唇から伝わる熱に脳が危険信号を出してくる
胸を押して離れようとするのに尋の身体はビクともしないばかりか、その手はいとも簡単に捉えられてしまった
「んんっ・・・!」
首の後ろを支える大きな手が抵抗する身体の自由を奪い
動かせない頭と身長差で拒んでいたはずの舌は絡め取られ深く濃密になってきた
・・・だめ
拒む意識と裏腹に
身体の力を根こそぎ奪うようなキスに
ドロドロに溶かされて
溺れていく
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