距離

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白ワインを飲みながらメニューを眺める 「何にしましょう」 背筋を伸ばして立つ小田さんにお願いをするために視線を合わせた 「今日は最後にちらし寿司が食べたいの」 「ちらし寿司?」 「小皿で良いから蟹と海老を乗せたちらし寿司、作って貰えないかなぁ」 「お安い御用です」 笑顔で引き受けて貰えた あのメールの所為で食べたい気分が抑えられなかった コース料理の色々を端折って前菜、揚げ物、茶碗蒸しだけをお願いする 結局ちらし寿司が気になり過ぎて少し残してしまったけど 小田さんお勧めの白ワインだけはお喋りだけでも進む ちらし寿司に合わせて赤だしをお願いすると 「ワイン、ボトルが空きました」 湯気の立つお茶が出された 「全然酔ってないのに」 「お強いのは知ってますよ」 それでもと勧められたお茶に口をつける 「美味しい」 「でしょ?季節ですからね」 「フフ」 「お待たせしました」 笑っているうちに出されたのは朱塗りの枡に入ったちらし寿司 「ワァ、可愛い」 蟹肉と開いた海老が乗ったちらし寿司は でんぶや錦糸卵、さやえんどうに木の芽の色が入って綺麗に盛り付けられている これなら食べきれそう 「写真に撮っても良い?」 「構いませんよ。撮りましょうか?」 ダメかと思っていただけに嬉しくなって頷いてみたけれど ポシェットに手をかけたところで急に気分が萎んだ 「携帯電話忘れちゃった」 「珍しいですね、携帯電話って若い子には必須アイテムじゃないんですか?」 「・・・ん。と。そう、かな?」 依存はしてないから無いなら無いで過ごせる 「小雪ちゃんの彼氏は心配で仕方ないね」 「なんで?」 「美人ってだけで心配なのに所在さえ掴めないって不安ですよ?」 「残念なことに彼氏はいないの。これまでも、これからも」 「・・・?」 不思議そうな表情の小田さんに 「美味しい」 話をすり替える 察してくれたのか話が戻ることは無かった 「ご馳走様」 そう言って立ち上がると綺麗なお辞儀が返ってきた
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