ドラゴンの執事

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「とは言ったものの、ああ!ジェマが心配だ!街で働くなど(ドラゴン)の娘が!」 玄関まで見送りに出た巨大な金色の龍は、遠離(とおざか)る馬車を涙目で見つめる。 「旦那様、お諦め下さい。これが(かね)てよりお嬢様がされていたお誕生日の贈り物。人として人の中で働く。その日が来たまでのこと」 黒い燕尾服を隙なく着こなした老執事は、静かに主を諫めた。 「お前は心配ではないのか、アーロン!?12年間手塩にかけた娘が有象無象の真っ只中に突進して行ったのだぞ!悪い虫がついたり、人買いに掠われたり、辻強盗に遭遇したり」 「パン屋の臨時雇い、しかもたった1日です。店には女主人と娘。送迎は馬車。万一に備えお嬢様の周辺には使い魔達を配置致しました。そのようなご心配は無用かと」 「なぜわしには変身能力がないのだ!人に身をやつせればピッタリあの子に張り付いて守ってやるものを!」 龍はもふもふの金色の毛皮を震わせ激しく嘆く。 使用人達はいつ主が嘆きの火炎を口から噴射するか気が気でない。 老執事は狼狽(うろた)える彼らをよそに、馬車の行方を寂しく眺めていた。
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