ドラゴンの執事

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「私頑張ったよ、アーロン」 ジェマは馬車に乗ると俯いたまま、自分の隣に座る執事に話しかけた。 「でも、全然上手くいかなくて。(じい)に髪もお団子に結ってもらってせっかく綺麗にしたのに。憎まれて騙されて軽蔑されて追い出されたの」 ジェマはぶるぶると小刻みに震えていた。 「な、何が悪かったのかな?私が他の人と違うから?何で人と違ってたら意地悪されるの?」 膝の上に握りしめた拳にぽたぽたと涙が零れ落ちた。 「好かれようとした相手から、お嬢様は何を感じましたか」 それまで少女の話を黙って聞いていた老執事が静かに口を開く。 「おかみさんには嫌な感じ、アリスさんには何だか怖い変な感じ。でも、そんな事思っちゃいけないと思って」 「不満の原因は自分にありますが、不安の原因は相手にあります。お嬢様が感じた漠然とした嫌な不安感は、相手から滲み出す悪意を感じ取ったもの。妬みと嫉妬が拍車をかけたとは言え、恐らくお嬢様がどれほど努力したとしても結果は同じだったでしょう」 「どういう事?」 「店主は最初から賃金を支払う気はなく、ただ働きさせる腹だった。店主親子はグルでしょう。恐らく、同じ目に遭った者が他にも何人もいるはずです」 「そんな」 ジェマはそれ以上、言葉が出ない。 それでもしばらくしてやっと絞り出した言葉は、 「人は怖いね」 だった。
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