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二十歳の誕生日。
わたしは、妙にかしこまった両親と向かい合っていました。
「春美。折り入って話があるの」
先に口を開いたのは母でした。
「二十歳になったらちゃんと話そうと思っていたの。──あなたは、わたしが産んだ子ではないの」
「え……」
一瞬、何を言われたのかわかりませんでした。母はなるべく感情を抑え、淡々とこれまでのことを語りました。
病気のため、子供を望めなかったこと。だけど、それでも子供が欲しかったこと。両親二人で散々悩み話し合った末、養子を取ろうと決意したこと。知り合いの病院に、子供を産んでも育てることの出来ない妊婦さんを紹介してもらったこと。その子が産まれたと同時に引き取り、特別養子縁組の手続をしたこと。
「わたしが産んだ子ではないけど、春美はわたしたちの子供だし、家族よ。春美がうちに来た時から、わたしもお父さんもそう思っているわ」
母はそう言ってくれました。しかし、わたしは色々な感情が頭の中をぐるぐると駆け巡り、混乱の最中にありました。
「わたしを産んだ人って……どういう人なの?」
思わず、わたしは訊いていました。両親は顔を見合わせました。
「詳しい素性は教えてもらえなかったよ。住所や名前もね」
答えたのは父でした。
「でも、子供を手放す経緯は聞いた。その子──まだ中学生の子供だったんだ──は、悪い男に騙されて妊娠したんだが、父親になるその男は責任も取らずに逃げてしまったんだ。その子の家は母子家庭で、経済的に子供をもう一人育てることは出来なかった。それでもその子は宿った命を絶つこともしなかった」
「それでせめて、ちゃんと育ててくれる人に託したいと望んだのね。だからわたし達は、あなたに出会うことが出来たのよ」
「もしも春美が自分を産んだ人を探したいと言うなら、出来るだけの手助けはする。だが、ここが春美の帰る家で、僕らが春美の家族だということは忘れないでいて欲しいよ」
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