6章 「きみには関係ない」

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「そういえば、さっきトイレで何か言いかけてましたね」 「尾野さんのことだよ」 「遠山さん、尾野さんとはほとんど交流ないって言ってましたよね」 「それでも、以前、一度だけ彼の部屋を訪ねたことがあるんだ」 「へー。誘われたんですか?」 「いや、そういう理由じゃない。夜中、尾野さんの部屋が騒がしくて迷惑だったから文句を言いに行ったんだよ」  遠山いわく、尾野は友人数名を招いて酒を飲んでいたらしい。そして、遠山が苦情を言うと「これで我慢してくれ」と言って紙幣を押し付けてきたのだという。 「浪人生にしてはけっこうな額だった。そのときの酒や食べ物も彼が支払っていたらしくて、友だちにその気前の良さを指摘された尾野さんが、『いい収入源が見つかったんだ』と言って笑ったのを覚えている」 「いい収入源って……」 「たぶん、羽田さんから振り込まれていた金だろう」 「一体何のために、羽田さんは彼に送金していたんでしょうか。家族でもないのに……」 「何か弱みを握られていたのかもしれない」 「弱みって、いったい何でしょうか?」 「さあ。……きみにはあるか?」 「えっ」
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