1章 「きみたち、付き合ってみないかね?」

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 同意を求めるように言って、研一はベッドに視線を落した。遠山もそれに倣う。二人の視線の先では、心電図のコードに繋がれた庸介が静かに眠っていた。まぶたはぴったりと閉じられていて、ピクリとも動かない。  真里亜の妹が起こしたあの事件から三週間を過ぎた。あれ以来、庸介は昏睡したまま目が覚めない。担当医の話では、完全なる脳死とは言いきれないものの、庸介の脳が受けたダメージは大きく、今後彼がどうなるのかは、はっきりとはわからないということだった。  どうなるのかわからないなら、庸介が元通り目覚める可能性もあるということ。遠山と研一はひたすらにそれを信じ、空いた時間を見つけてはこうして病院に通っている。  感覚に刺激を与えれば目覚めるのではないかと、二人は庸介の好きな小説を朗読したり手指をマッサージしたりと毎日さまざまなことを試みている。明朗快活で人懐っこい研一と、陰気で人を寄せ付けない遠山。ふだんは性格の合わない二人だが、庸介の回復を願う気持ちだけは共通していると言えた。 「そういえば、あの子どうしてるだろうな」研一は言った。 「あの子?」 「マメちゃんだよ。覚えてるだろ」
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