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そして驚いた。
「どうして?」という問いかけに返ってきた答えを聞いて。
というのも、その湖城くんとかいう顔も知らない男が、自分と同じ、ラクダのリュックサックを使っているというのだから。
つまり、「ペアルック」と言うのだか「オソロ」と言うのだか、そういった類のものだと勘違いされてしまったようなのだ。
が、短絡的過ぎやしないか?
陰キャの対極にある陽キャの考えることにはちょっとついていけない。
もちろん雪乃はそんな感想はおくびにも出さずに、投げかけられた問いにNOと返したのだが、話はこれで終わらなかったのだ。
またその数日後に種元さんがやってきて、
「ねえ、そのリュック、まだ使う気?」
などという、意味不明のお伺いを立ててきたからだ。
そりゃあ自分の所有物ですから、使う気満々ですが――
とは思ったが、雪乃はもちろん、その言葉は唇の内側にとどめて、うんともすんとも返事をしなかった。
すると種元さんは、目尻をキッとつりあげて、
「湖城くんと付き合ってもないのに、まぎらわしいこと、やめてくんない?」
と口調を荒げ、あからさまにイラついた態度を見せたのだった。
種元さんの言いたいことはつまり、今後、ラクダのリュックを使うなということに他ならない。
自分の所有物を自由に使えないとは、いったい何ということか!
全く理不尽な要求だったが、従わないという選択肢はほとんど捨てていた。
というのも、雪乃は不要な争いは避けたい消極的な平和主義者だったからだ。
そういうものに巻き込まれては、大切な妄想タイムが邪魔され、ひいては快適なぼっちライフに支障を来たしてしまう。
これこそ時間の浪費だ。
というか、自ら進んで時間強盗に遭いに行くようなものだ。
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