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もちろん、ずっと欲しかったそのリュックを使うことができないというのは悔しいことではあったが、自分の身と自分の時間を守るためには、諦めるより他なかった。
なんせ私は陰キャですから、陽キャと違って闘うよりも引くことを選ぶのだ!
と、雪乃は開き直りつつも、少しだけ気になっていることがあった。
それというのは、件の湖城とかいうその男が、どんな人物なのかということについてだ。
頭の程度はわからないが、美人でスタイルのいい陽キャの種元さんがあれだけこだわるのだから、相手の男も当然に陽キャで、相当いい男なのだろう。
話のタネにひとつチェックしてやるか。
まあ、話す相手なんていないんですけどね。
雪乃は自分に突っ込みつつ、10分休憩のときに、誰かを探すフリをして1組の教室をさり気なく覗いてみた。
すると、廊下側から3列目、後ろから2番目の机の脇に、自分のものと同じリュックサックがかかっていた。
周囲の男子と談笑しているその席の主を見て、雪乃はえっと思った。
陽キャは陽キャなんだろうけど……?
湖城とかいうその男は、雪乃が仮に陽キャであったとしても選ばないだろうな、というくらいにチャラチャラした男だったのだ。
根元をゆるめたネクタイに、シャツのボタンを無駄にあけて首元を大きく晒け出し、おまけに腕まくり。
まるで、アニメキャラにありがちな制服の着崩し方。
やたらボリュームのある長めの茶髪。
こめかみのあたりに見え隠れしている、必要性があるのか不明の黄色いピン止め。
さらに、「ピアスの行商か!」と突っ込みたくなるほどに、銀の輪っかが耳に連なっており、右手にはごっつい指輪が2つも光っていて、どこに使うというのだろう、手首には色とりどりのヘアゴムがはめられている。
おいおい種元さん、この男と陰キャの私が付き合っているだと?
そりゃないだろ、いろんな意味で!
最高にバランス悪いから!
雪乃は込みあげてくる笑いを堪えるのに必死になりながら、その場を後にしたのだった。
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