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中学時代に使っていたリュックで通学するようになってから、1ヶ月ほどたっただろか。
雪乃がラクダのリュックを使わなくなってからというもの、種元さんは雪乃のそばに近寄ってこない。
言うまでもないが、雪乃も用事がないから、あれ以来ひと言も言葉をかわしていない。
会話がないのは平和な証拠。
それでいい、上等じゃないか。
だがね、こっちは少々不自由しているんだな……。
お荷物が増えてしまってね――
中学時代のリュックで通学するようになってから数日後、せっかく買ってあげたのにどうして使わないのかと、母から嫌味を言われてしまった雪乃は、その翌日から仕方なくラクダのリュックを背負って家を出ていた。
そして、最寄りの駅に着くとすぐに、ラクダのリュックの中に忍ばせていた中学時代に使っていたリュックを取り出して、その中にラクダのリュックと教科書などを詰め込んだ。
つまり、“器”を変えるという厄介な作業を強いられているわけなのだ。
もちろん、帰宅するときには、また逆の作業をすることになるのだが……。
けっ、めんどくさっ。
雪乃は心の中で愚痴を吐きながら、駅のベンチに座ってラクダのリュックへと荷物を詰め替えていた。
いつもはこの作業を自宅の最寄り駅で行うのだが、今日は別の駅で行っていた。
今ハマっているアニメの原作が気になっていた雪乃は、久しぶりに古本屋に立ち寄ろうと思い立ち、ひとつ手前の駅で降りていた。
本屋から自宅に帰るのには、徒歩でも電車でもたいして時間差がないので、歩いて帰るつもりでいたから、一つ手前の駅で下車した際に、詰め替え作業を済ませてしまおうと算段したのだった。
駅を出て本屋に到着すると、雪乃は早速、目当ての漫画本をパラパラとめくり始めた。
それから5分たったか、たってないかという頃だった。
「あれっ? あんた井ノ部ちゃんだよね?」
背後から声をかけられたからびっくりして振り向くと、見覚えのあるチャラい男がニヤニヤしながら立っていた。
湖城くんだった。
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