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「はは、やっぱそうじゃん、まじウケる」
いや、私は全然ウケませんが……。
それはそうと、どうして私の顔と名前を知っているわけ?
ましてや井ノ部ちゃんとか、そんな呼び方される筋合いもないし。
ああ、何か面倒くさい展開になりそうな気配。
雪乃は無言のまま、目の前の男をどう処理しようかと、脳内会議を始めていると、
「ってかさ、そのリュック、学校で使ってなくない? なのに、何で今、しょってんの? あっ、もしかして魔法? それとも手品?」
「えっ?」
わけのわからない質問、それに加えてにいかにも軽率そうな話し方に、雪乃はあっけにとられていた。
これじゃ作戦会議を立てても無駄に終わりそうだ……。
とにかく、この場から1分でも1秒でも早く退散するような方向に仕向けないと。
雪乃が眉をしかめていると、
「あ、もしかして、井ノ部ちゃんのそれ、特別仕様のリバーシブルだったりして? ははははは! だったらウケる、俺もそれ欲しい!」
何がおかしいのか、チャラ男くんは手をパンパン叩いて豪快に笑っている。
雪乃は自分が騒いでいるわけでもないのに、立ち読みしている客の視線が当たるから妙に落ち着かない気分になった。
すると急にチャラ男くんは真顔になって、
「ってかさっ、これ、マジな質問なんだけど……」
それぞれにかたちの整ったパーツが、うまい具合に配置された顔面を雪乃の顏に近づけてきた。
雪乃は「羨ましい限りです」と思いつつも、反射的に一歩後ろに退いて、
「何ですか?」
とだけ発して、素っ気なく訊き返した。
すると、チャラ男くんはこめかみのあたりを指でポリポリとかきながら、凛とした顔つきを崩さずに、
「……俺とオソロがイヤなん?」
先ほどまでとは打って変わって神妙な声でたずねてきた。
イヤって訊かれても……。
雪乃としては種元さんにあんなことを言われなければ、使い続けるつもりだったが、それは単にチャラ男くんの存在など気にもしていなかったからに過ぎず、よって、オソロがイヤとかイイとか、そういう次元で考えたことがなかっただけなのだ。
ありのままにそう伝えたかったのだが、まさか、種元さんに持ってくるなと遠回しに言われたとも言えないので、
「嫌ってわけじゃないですけど、何ていうか、私みたいな者が同じリュックを使っていたら、迷惑だろうなと思っただけです……」
とりあえず雪乃は自分を落として、無難な答え方をしたのだった。
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