なんせ私は陰キャですから!

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 するとチャラ男くんはほっとしたような表情になって、腰履きのズボンのポケットに手を突っ込むと、   「なあーんだ、そうだったんだ! ……でもよ、それあり得ねえから。だって俺、めっちゃ嬉しかったし」  口笛でも吹くように口をすぼめてこう言ってから、 「もしかして、あの噂、気にしちゃってたりするん?」  と訊いてきた。  どうやら例の噂はチャラ男くんの耳にも入っていたらしい。 「……そりゃあ気にしますよ」  雪乃が率直に答えると、 「何で?」  チャラ男くんはパチパチっとまばたきを繰り返している。  雪乃は、それ、ズバリ訊いちゃうんだという目でチャラ男くんを見返してから、そして叫んだ―― 「なんせ私は陰キャですから!」  どうだ、参ったかと雪乃が開き直っていると、チャラ男くんは妙に嬉しそうな目をして、 「あ、俺もそれ同じ」  思いがけず同調してきたのだ。  雪乃はウソツケという気持ちを、 「は?」  という一文字に託した。  すると、チャラ男くんは、 「え、だから、俺も陰キャって意味」  などと言っているので、全く雪乃が伝えたかったことをわかっていないらしい。  ああ、もうまどろっこしい! 「陰キャなわけねえだろうが!!」  本屋にいることなどすっかり忘れてしまっていた雪乃は、つい声を張りあげてしまった。  店内に流れていたBGMが一瞬、聴こえなくなった。  が、本性をあらわしてしまった雪乃に対し、チャラ男くんは引くどころか、 「井ノ部ちゃんの違った一面見れて、俺、マジ今興奮気味」  などと抜かしている。  完全にバカにされている、雪乃がそう思ったときだった。 「受験のとき、井ノ部ちゃん、俺の隣の席にいたじゃん。あ、覚えてねえか……」  チャラ男くんは回顧的な表情を浮かべて、ぼそぼそと独り言のように呟き始めた。
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