9人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
☆
しゅんくんは餃子のあと ラーメンを美味しそうに食べる この人はきっと裏表のない人なんだろう スナックにいるときと変わらない このノリは人によって場所によって好き嫌いは別れるだろうけど 今この場所で宗ちゃんにとっては最悪なノリだろう
でも宗ちゃんはいつも冷静で場の空気を読む人だ 良くも悪くも感情を読み取りにくい 文字通り しゅんくんと宗ちゃんの“間に座っている”俺はひどく居心地がわるい 唐揚げの味もわからん
そろそろ帰ろうと言う時に しゅんくんが
「まみちゃん お水ちょうだい」と言った
めぐちゃんは「はい」と言ってお冷とピッチャーを持ってしゅんくんの隣に行く
その様子をじっと見つめている宗ちゃんが横目にわかる
「どうぞ」とコップと一緒に差し出されためぐちゃんの手に
「ありがとう」といいながらしゅんくんは撫でるように優しく触れてその手を重ねた
まじかよっ！彼にとってはスナックと何ら変わらない流れの仕草だろう その刹那 めぐちゃんは振り返って宗ちゃんを見た 恐らく目があっただろう そして俺は 宗ちゃんが拳を握って立ち上がろうとするのがわかった
それを追い越しておれは声をあげる
「お兄さん 店がちがうっしょ？」
その声に宗ちゃんは冷静さを取り戻したようで しゅんくんは屈託なく
「あっ そうだよね ごめんごめん」と笑ってめぐちゃんを解放した
しゅんくんにしてみたら他意もなく 挨拶くらい自然にした仕草 めぐちゃんをどうこうしたい訳じゃなかったと思う
でも めぐちゃんと 特に宗ちゃんにとっては一大事だったんだろう 普段あんなに冷静な宗ちゃんがおどろくほど切な気な声で
「めぐ…」と呟いたのが俺だけに聞こえた
それからも宗ちゃんは普通に飯食いに行ってたし めぐちゃんも普段通りにしてたけど 俺の目にはどちらもひどく落ち込んでいるようにうつった
最初のコメントを投稿しよう！